ジャズ界のレジェンド、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)と、ペプシコ(PepsiCo)の会長兼CEO、インドラ・K・ヌーイ(Indra K. Nooyi)がハーモニーを奏でてスイング ― 枠組みの中での自由、オーセンティシティ(本物であること)、さらには、よきリーダーシップを発揮するには卓越したソロイストであると同時によきチームプレーヤーであることが必要である理由について語り合います。

インドラ・K・ヌーイは、若い頃に母国インドから米国にやって来ました。持ち前の数々の才能の中でも、人々をつぶさに観察する天分は、新 たな国の文化をすぐさま把握してやがて食品飲料巨大企業ペプシコのトップへと登り詰めることになるキャリアをスタートさせる助けとなりました。鋭敏な眼力 を持つヌーイは、自身が敬愛してやまない有名ジャズ・ミュージシャン、ウィントン・マルサリスのコンサートである特別なことに気付きました。ニューヨーク 市のジャズ・アット・リンカーン・センターの芸術監督を長く務めるマルサリスは、バンド内のスターのように振る舞うことなく、すべてのミュージシャンが必 ず見せ場を持てるようにしていたのです。二人はうららかな春の日に、ニューヨークのアッパーウェストサイドで顔を合わせました。これが初対面ではないもの の、創意とインスピレーションに富むリーダーシップの意味についてひざを交えて語り合うのはこれが初めてでした。ヌーイとマルサリスは活動する畑も違え ば、業績を測る尺度も違いますが、リーダーシップについての二人の洞察はしばしば完璧に調和していました。二人は、自己の利益よりもチームの利益をいかに 優先するか、人の話にいかに耳を傾けるかについて語りました。また、本物であるためには、自分自身の文化的伝統の理解と共に、心と魂がいかに必要である か、「愛のむち」がいかにして人をトップへと押し上げうるか、心配性が実のところいかに役立ちうるかについても語りました。

インドラ・K・ヌーイ:組織は交響楽団にたとえられることがありますね。でも、最良の企業や経営チームがもっと多くの共通点を持っているのはジャズバンド だと思います。ジャズは即興です。プレーヤーは互いからヒントを得ます。ギブ・アンド・テイク(やりとり)をする自由、独創性や自発性を発揮する自由があ ります。

ウィントン・マルサリス:西洋のクラシック音楽の美点は、65~70人が一堂に腰を落ち着けて、ベートーヴェンの狙いを一糸乱れず達成できることです。指 揮者がオーケストラの前に立つと、全員が同じ譜面を見ます。ファゴット奏者は、ティンパニー奏者が理解していることを理解しています ― 「ここはG(ト音)でメゾフォルテ」とか。ジャズにはそれほどの制限はありません。ジャズの前提は、みんなスイングしたがっているということ。全員が一致 協力するときには音楽がスイングしますが、そうでないときはスイングしません。だがら、望む結果を達成するには、全員が狙いを明確に理解して、同じ方向に 物事を動かす必要があります。

ヌーイ:企業内で典型的に起こることは、全員が互いと張り合うという状況です。ソロイストが多すぎる!

マルサリス:一流のジャズ・ミュージシャンというのは、自分の分限をきわめて明確にわきまえていると感じます。その意識を失ってしまったら、一緒にやって 行くのは無理だということを心得ています。その意味で、ジャズは、対人関係の深い理解に基づいています。スイングしたければ、互いのことを理解する必要が あります。つまり、いつも自分のやりたいようにやるわけにはいかないということ。

ヌーイ:ソロイストが多すぎると、結局は衝突しますね。それはもはや音楽ではなく、耳障りな音です。ソロをとる時間はありますが、人からヒントを得るためにじっと眺めたり、一緒に演奏したりする時間もあるわけですね。

マルサリス:ジャズには、みんな一緒に仲良くやっているというイメージがありますが、現実には、仲良くやっていこうといつも努力しているわけです。厄介な のは、どの二人をとっても、タイム、つまり曲のリズムパターンを決してまったく同じようには感じ取らないという点です。例えば今ここで、時計を見ずに1分 経ったら教えてと頼むとすると、あなたはちょうど1分経ったときに口を開くかもしれませんが、私はほんの35秒で口を開くかもしれない。時間の感覚が違っ ているわけです。だから、互いをせかせたり、引き止めたりする。私が「今だ」と言うと、あなたは「いや、今でしょ」と言う。スイングするためには、共通の 土台を見つけなければなりません。タイムをすっかり私任せにしてしまうと、駆け足になってしまいます。何しろ、35秒を1分と感じていますから。逆にタイ ムをあなた任せにすると、のろのろし始めます。

ヌーイ:絶えずお互いを受け入れる必要がある。

マルサリス:その通り、ギブ・アンド・テイクです。無数の微調整をしながら、自分自身であり続ける方法を見つける必要があります。それは会話をしているよ うなものです。インプロビゼーション(即興演奏)をして自分独自のものをやったり、ブルースを演奏して自分の気持ちを表現することはできます。でも、それ は常に、自分の経験や伝えようとしている感情との創造的な緊張関係の中で行われます。

ヌーイ:これはビジネスにも当てはまると思います。得てして人は、相手の話に真剣に耳を傾けたり、より大きな構図の中で自分がどんな役割を果たしているのかを立ち止まって考えたりすることに時間をかけません。結果、オーセンティシティを欠いてしまうおそれがあります。

マルサリス:オーセンティシティをどう定義なさいますか。

ヌーイ:自分のしていることに自分のすべてを傾けるという意味です。何をするにも、オーセンティシティを持って行う必要があります。組織の一員になるに も、エコシステムの一部になるにも、全身全霊を捧げて参画するにも、オーセンティシティが必要です。それがないと、仕事が機械的になります。自分のすべて を捧げて、経験をできうる限り最高のものにするというより、ただタイムカードを押すだけの毎日になります。

マルサリス:そうですね。オーセンティシティは、自分の伝統や自分の歴史について知ることも意味する気がします。私は若い頃、年長のミュージシャンに囲ま れて多くの時間を過ごしました。ハリー“スウィーツ”エディソンは、大恐慌時代にカンザス・シティから出てきて、以来、偉大なカウント・ベイシー楽団でプ レイしたジャズ・トランペッターでした。彼はいつも私に、「ブルースのやり方を覚えなきゃだめだ」と言っていました。自分では、彼の言っている意味が分 かっているつもりでした。いつも、何らかの形式のブルースを演奏していたからです。ニューオーリンズに住んでいれば、そうしないわけにはいきません。た だ、私にとってブルースは、12小節の音楽サイクルのことでした。私が分かっていなかったのは、彼が語っている伝統の奥深さでした。ブルースは単に音楽形 式を指すのではなく、アメリカ人としての国民的アイデンティティの一部をなす豊かな伝統遺産だったのです。ブルースが、人生や愛、苦しみ、死、愚かさ、優 しさについてのリアリズムをたっぷり叩き込んで人生の苦難に備えさせてくれるということがようやく分かり始めたのはもっと後になってからでした。ですか ら、オーセンティシティをもたらすのは、仕事への身の投じ方だけでなく、自分の知らないことを学ぶことにどれだけ心をこめて臨むかということでもあるわけ です。

ヌーイ:まさにそうですね。ニューヨークはジャズの本場ではありません。ジャズを追求するのに、どうしてニューオーリンズを後にして、こちらへ来られたのですか。

マルサリス:ジャズはここニューヨークで生まれたわけではないかもしれませんが、ここはジャズのメッカでした。ルイ・アームストロングの本拠地であり、 ローズランド・ボールルームがあり、ジョージ・ガーシュインとポール・ホワイトマン楽団の本拠地でした。高校を出てからこちらへ来たときも、ここはまだ、 ジャズを演奏する米国随一の場所でした。ただ、ニューヨークのジャズ・シーンは落ち込んでいると感じました。演奏のレベルは、レコードで聴いていたものの 足元にも及びませんでした。ミュージシャンや業界はすでに信念を失って、違った方向に進んでいました。19歳のとき、私は突然人気が出たのですが、実のと ころ私のプレイはそんなによくありませんでした。まあまあと言ったところ。なのに、なぜか、私にスポットライトが当たったのです。罪悪感を覚えました。自 分より上手い人たちよりずっとたくさん宣伝をしてもらい、ずっと多くの認知度とお金を手に入れたわけですから。私は彼らの利益を代表しなければならず、ど うすればもっと上手くプレイできるようになるかを考え出さなければならず、多くのミュージシャンがそこから離れて行っているジャズの伝統も守らなければな りませんでした。それは長い道のりで、大変な苦労をしました。決まって悪評を買い、私のアイデアには難癖がつけられました。ようやく心にゆとりを持てるよ うになったのは、30歳くらいになってからのこと。ジャズ・アット・リンカーン・センター(JALC)がスタートしたのは私が26歳か27歳のときでし た。ミュージシャンではないものの、JALCのミッションや、それがニューヨーク市の状況にどうフィットするかを理解してくれる人々に出会えたのは幸運で した。彼らは私の芸術的ビジョンを取り上げて、それをちゃんと形にしてくれたのです。

ヌーイ:そして今、私たちがいるのは、ウィントンが建てたそのジャズ・アット・リンカーン・センター!

マルサリス:まあ、私たちみんなで建てたわけですが。あなたも、時に困難な、長い道のりを歩んで来られたことを承知しています。別の文化 ― 話す言葉も違えば、物事が持つ意味も異なっている文化からこちらへ来られたわけです。どんなふうだったのでしょう。

ヌーイ:まあ、多くのことを学び直さなければなりませんでしたね。ほかの人たちを観察して、そのやり方に馴染まなければなりませんでした。助言者もいまし た。こうすべし、こうするべからずを教えてくれる人たちです。課題は、すっかり「現地化」してしまわないようにすることでした。あなたがニューオーリンズ というバックグラウンドの最良のものを手放さないようにする必要があったのとちょうど同じように、私は自分自身の文化の最良のものを守り続ける必要があり ました。両方の文化の最良のものを融合させることが課題でした。

マルサリス:あなたは大変厳格な教育を受け、化学、物理学、数学を学ばれました。その後さらに、プランニングや財務、マーケティングを学ばれた。あなたの リーダーシップがこうした様々の分野をどう活用し、ミクロとマクロの視点の間をどう行き来しているのか、とても心を惹かれます。

ヌーイ:私はそれを、枠組みの中での自由ととらえています。心を自由に羽ばたかせるためには、まず自分の足元をしっかりさせておく必要があります。私に とって、化学、物理学、数学は、中核をなす専門学問です。それらは、夢想することや創造性を持つことを可能にするしっかりとした基礎をもたらしてくれま す。私の見るところ、創造性はいつでも持つことができますが、科学や数学はいつでも学べるわけではありません ― そうした学科は、若いときに学ぶ必要があります。

「心を自由に羽ばたかせるためには、まず自分の足元をしっかりさせておく必要があります。」
-インドラ・K・ヌーイ

マルサリス:枠組みの中での自由という考え方はいいですね。それはジャズそのものです。枠組みは非常にフレキシブルですが、土台をなすもので、支えとなり ます。ルイ・アームストロングやチャーリー・パーカーといった最も偉大なジャズ・ミュージシャンの録音を聴いてみると、ハーモニーを合わせ損なうことが一 度たりともありません。それは、ほんと、とてつもなく凄いことなのです。タイムのプレッシャーの中で即興演奏をしているわけですから。でも、彼らにそれが できたのは、ハーモニーとリズムの枠組みに根差していたからです。厳しい鍛錬を通して、より自由に即興演奏ができるようになったのです。

ヌーイ:ええ、それはとても重要ですね。枠組みが与えてくれる自由に注目したい人もれば、枠組みがいかに制約をもたらすかにむしろ主眼を置いているように 思える人もいます。でも、どちらの側面も必要です。企業は枠組みの中で活動する必要があります。そうしないと、無秩序になります。とはいえ人間は、自分の 本領を発揮する創造的な自由も必要とします。

マルサリス:若いプレーヤーたちと一緒にやるときにそのことについて考えますね。若者が ― 特に困難な状況にあるときに ― 愛や優しさのようなものをより多く感じことができればできるほど、そのことがより多くの自由を彼らにもたらすような気がします。昨日も、10歳ぐらいの女 の子を指導していたのですが、私は、彼女の演奏についてこんな言葉を返しただけでした。「君は美しいサウンドを持っているし、集中も保っていて、バランス を失わないね」。教師の中には、こうしちゃダメ、ああしちゃダメと言う人もいるでしょうが、そうした制限は相手を萎縮させるおそれがあります。そうした 「べからず集」は、あくまで相手ができることのからみで示す必要があります。

ヌーイ:リーダー全員が、教師や指導者になりたがるわけではありません。それには莫大な時間とエネルギーが必要です。でも、人を育てることや指導すること に関心があるなら、そして、会社やジャズ・オーケストラを前進させることのできる後進を育てたいなら、それに進んでコミットする必要があります。今おっ しゃったように、相手を励まし、ポジティブなフィードバックを提供しなければなりません。そして愛のむちを与える必要があります。私は愛のむちの文化で育 ち、それから今度は、平均点を取ればOKの文化にやって来ました。私の文化では、B評価やC評価をもらったら、家に帰らないほうがいいのです! むしろ学校に戻って、そこにずっといたほうがまし。両方の文化を組み合わせるのが正解だと思います。B評価やC評価に対してOKと言ってもいいですが、そ の後でこう尋ねる必要があります。「あなたをA評価に持っていくためにどう力を合わせてやっていけばいいかな」と。結局のところ、もっと上を目指したいと いう願望を相手に抱かせてあげる必要があるわけです。かつてある人から聞いた話ですが、一番と二番の間の距離は常に一定だそうです。なので、二番に伸びて ほしければ、一番も伸びる必要があると。自分自身を高めれば、組織も一緒に引き上げられます。リーダーの立場にある者は生涯、生徒であるべきだと思いま す。トップの立場に到達したからといって、生徒でないわけではありません。私はCEOですが、今でも常に学び、新しいスキルを開発しています。

マルサリス:偉大なピアニストのジョン・ルイスがかつて私に、ディジー・ガレスピーのオーケストラでプレイしたときのことについて話してくれたことがあり ます。ジョンによると、1940年代にビバップが誕生したとき、ディジーはほぼ一夜にしてレジェンドになりました。まだほんの31~32歳でした。レジェ ンドとなっても彼はまだトランペットのレッスンを受け続けました。ジョン・ルイスやほかのプレーヤー仲間は互いにこう言い聞かせたそうです。「おい、ディ ジーがまだレッスンを受けるんなら、おれたちもレッスンを受けなくちゃなあ!」って。

ヌーイ:その通りですね。生涯学習者であるということは、それを見た人が、「組織のトップでも生徒になれるのなら、われわれになれないはずがない」と思うということです。

マルサリス:先ほどおっしゃったように、リーダーシップへのこうしたアプローチは犠牲を伴います。人を指導したいと思うなら、それには時間とエネルギーが 必要です。ジャズでこれが難しい理由は、ステージに立つためやスポットライトを浴びるために音楽の道に進む人が多いからです。とはいえジャズの原則はエゴ を捨てることです。音楽はある種の自己犠牲を必要とします。私はこれまで25年間、ベーシストにアンプなしで演奏してもらおうとしてきましたが、いまだ 叶っていません。ベースには、バランスをとる重要な役目があります。私が教えようとしてきたのは、ベースは最もソフトな楽器であるべきだということです。 ベースが一番ソフトなら、ドラマーはソフトにプレイするからです。もう一つの例は、ソロを短くすることです。なぜか、ジャズ・プレーヤーはそれぞれ10分 間ソロをとります。どうしてみんな、そんなに長くプレイするのでしょう。だから私は言うんです。「私の番が来たら、長くはやらないからね」って。それには 自制力が必要です。

ヌーイ:コンサートで演奏なさる様子を拝見しましたが、いつもまわりに目を配っておられますね。演奏しながら、指揮もされている。よきリーダーシップには その両方が必要だと思います。まわりの手本になるプレーヤーであると同時に、組織が調和を保って活動することを保証する指揮者でもあることが。誰かを一歩 前に出させたいときもあれば、一歩引かせたいときもある。リーダーは、そうした行動の手本にならなければなりません。相手がこちらの合図を受け取らないと きは、それに対処する必要があります。誠実なフィードバックはこの上なく重要です。グループが持てる力をフルに発揮せずプレイすることがないよう、グルー プを引っ張り上げる必要もあります。でも音楽は、1つの重要な点でビジネスとは異なります。音楽の演奏は、結果がすぐさま出ます。結果がすぐにその場で耳 に入ります。何か気に入らないところがあれば、すぐにグループのところに行って、「うまくいかなかった。もう一回やろう」と言えます。ビジネスでは、もう 一回やり直すわけにはいきません。うまくやるチャンスは一回きりで、失敗のコストは高くつきます。そして、結果が出るのにも、より長い時間がかかります。 フィードバックのループを短縮する方法を考え出し、グループを絶えずユニゾンで機能させ続けるのはなかなか大変です。

マルサリス:あなたのリーダーシップは多くのプランニングと戦略情報に頼りますね。5年や10年先取りして考える必要がある。

ヌーイ:場合によっては20年。

マルサリス:そうした長期的視点は戦略にどう影響するのですか。物事が計画通りに運んでいないと感じた場合、途中でどう調整を行うのでしょう。

ヌーイ:それは難しいです。戦略的に考えるというのは、常にカーブを見渡すこと、点と点をつなぐこと、ほかの人々が推定値しか見えていないところで全体像 や形を描き出そうとすることです。最大の難題は、方針を変更する必要性を組織に納得させることだと思います。それはとても難しいです。人は現状に安住しが ちですし、新たな方針がどんな報いや見返りをもたらすか見当が付きません。リーダーたる者は、変化が物事をどう良くするかを絶えず伝える必要があります。 こうしたコミュニケーションは、相手の抵抗に遭いますから、時間がかかる上に精神的にも疲れますが、やらないわけにはいきません。変化の必要性を人に納得 させることに時間とエネルギーをかけることを渋るようでは、成長と発展は望めません。

マルサリス:カーブを見渡すとか、点と点をつなげるというのは、具体的にはどういうことを指すのでしょう。

ヌーイ:それにはいくつかのステップがからんでいます。第一に、ほかの専門分野や業種の人たちと話をする必要があります。そして、様々の無関係のソースか ら絶えず情報を吸い上げる必要があります。貪欲な読書家になって適切な情報を選び取れば、新しいやり方で物事を組み立てることができ、新たなストーリーが 見えてきます。第二に、大きな変革を体験してきた人たちと話をする必要があります。そういう人たちは、変化の必要性をどう認識するに至ったか、それにどう 対処したかについて教えてくれます。私はたくさんの変革リーダーと話をして、彼らの考え方を理解するようにしています。第三に、長期的視点から自分のビジ ネスを眺めて、どんな新しいテクノロジーが出現してゲームのルールを根本的に書き換えてしまう可能性があるかを自問する必要があります。これはつまり、自 ら進んで生徒になり、未来についての考えやアイデアを分け与えてくれる人たちを探し出す必要があるということです。想像力を駆使して、様々の未来のシナリ オの影響を予測しなければなりません。最後に、ある程度心配性であることがとても大事です! ある程度、不安に思う必要があります。自信過剰だと、変われません。こうした心配性とは仕事の上で毎日付き合っています。

「全員が一致協力するときには音楽がスイングしますが、そうでないときはスイングしません。」
-ウィントン・マルサリス

マルサリス:ご自身がなさっていることについて立ち止まって振り返り、考えを改めるきっかけを与えてくれた変革リーダーには例えばどんな方がいますか。

ヌーイ:2006年に初めてペプシコのCEOになったとき、アップルのスティーブ・ジョブズに会いに行きました。私のようなCOEがペプシコのような会社 について何をすべきと思われるか尋ねました。すると彼は、アップルで自分がしていることについて話してくれました。ジョブズによると、アップルの製品は ユーザーフレンドリーで、直観的で、見た目が美しいが、彼としては、製品を取り巻くエコシステム全体も同様に素晴らしいものになってほしいとのことでし た。彼はアップル用に設計されるあらゆるアクセサリーが美しくて意欲的なものであってほしいと思っていました。あらゆるストアや、アップルと触れ合うあら ゆる場が印象的なものであってほしいと思っていました。彼はこう言いました。「私はただ製品をデザインしているのではない。アップルと共に味わうことにな る経験をデザインしているのだ」と。私たちは今、ペプシコで同じことをしています。私たちはこう自問します。「消費者にどんな製品を消費してもらいたいの か」ではなく「消費者にうちの製品と共にどんな経験をしてほしいと思うのか」と。この種のデザイン主導、消費者中心のアプローチは、当社のイノベーショ ン・プロセスを変貌させつつあります。ご自身はどうですか。変化にどうアプローチなさいますか。

マルサリス:私たちはスティーブ・ジョブズが話していた課題に苦闘しています。つまり、完璧を目指して努力し、自分たちがやるすべてのことが均一の卓越性 基準を必ず持つようにするという課題。ルイ・アームストロングのレコードを50枚聴けば、彼が音をほんの1つ外すのを聞けるかもしれません。トランペット を演奏して、しかも即興でプレイしながら、常にそれだけ正確であるのは信じられないことです。同じことはチャーリー・パーカーにも言えます。夜中の2時で も、彼はシャキッとして、ほかの誰よりも2倍も速く、しかも説得力ある完璧な演奏をすることができました。私にとっての課題は、ジャズの核心にある絶対的 なテクニックの完璧さを伝え、あらゆる人に理解してもらうことです。

ヌーイ:ジャズでは、アイデアの多様性はどれくらい重要ですか。それは音楽的にどんな推進力になりますか。

マルサリス:歴史が示すように、君主制は、王族が身内同士で結婚し始めるときに崩壊します。同じ原則は音楽にも当てはまります。最高のジャズ・ミュージ シャンは、正反対のものをまとめ上げることのできるミュージシャンだったと感じます。ルイ・アームストロングの真に天才的なところは、対立するアイデアを 誰にでも分かる形でまとめ上げることができたことでした。彼は、世界がそれまでに耳にした中で最も洗練されたトランペッターの1人でしたが、それでいて彼 は、想像しうる最も素晴らしい最も魂のこもったブルースを歌うことができました。

ヌーイ:多様性は、それを前向きに受け入れようとする限りは素晴らしいものだと思います。組織内の多くの人たちは、多様性を握りつぶします。違った視点を 持つチーム内の誰かを取り上げて、「あいつはよくない。チームプレーヤーじゃない」と言います。それは間違いだと思います。考え方の多様性を探し求めて奨 励する必要があります。それはチームがよりよい決定に到達する助けになるからです。でも、人のやることに異議を差し挟む、違った視点を持つ人を受け入れる には、強力なリーダーが必要です。受け入れるのは簡単ではありません。

マルサリス:人は、多様性を受け入れることのできるリーダーに従い、そこを出発点にして成長したいと思っている気がします。その一方で、自分の意見がリーダーの決定に反映されることも望みます。

ヌーイ:そうですね。1つの視点からスタートし、その後、反対意見に耳を傾けてからより良い決定にたどり着くという形であってほしいわけですね。ジャズ音 楽が進化しモダン化し続けるなか、何か新しい違ったものを絶えずグループにもたらすことのできるミュージシャンをどうやって見つけるのですか。

マルサリス:独創的なアイデアを持つ人を見つけるのは難しくありません。でも、トレーニングを積み、かつ独創的なアイデアを持つミュージシャンを見つける のは難しいです。向こうが12~3歳の頃に私が指導したたくさんのミュージシャンと一緒にプレイします。彼らを相手にするのは大変骨が折れる場合がありま す。なんたって、彼らはジャズ・ミュージシャンですからね! 私たちの文化は自由に育ってきました。それはとても自由奔放なもので、言うなれば対立を通じての調和を信奉します。

「戦略的に考えるというのは、常にカーブを見渡すこと、点と点をつなぐこと、ほかの人々が推定値しか見えていないところで全体像や形を描き出そうとすることです。」
-インドラ・K・ヌーイ

眼下に広がるセントラル・パーク ― ジャズ・アット・リンカーン・センターのフレデリック・P・ローズ・ホールのアペル・ルームは、この対談のためのインスピレーション溢れる会場となりました。
眼下に広がるセントラル・パーク ― ジャズ・アット・リンカーン・センターのフレデリック・P・ローズ・ホールのアペル・ルームは、この対談のためのインスピレーション溢れる会場となりました。

「ブルースは、人生や愛、苦しみ、死、愚かさ、優しさについてのリアリズムをたっぷり叩き込んで人生の苦難に備えさせてくれる。」
-ウィントン・マルサリス

ヌーイ:まさにそうですね。全員が同じゴールを目指すということ、そのゴールにたどり着けば全員の勝ちだということを人々に分かってもらう必要がありま す。でもそれは、リーダーが人々に対する本物の気配りと思いやりを示してこそ実現します。それを示さないと、社員は、会社には心がない、自分たちは単なる 商売の道具だと感じ始めかねません。リーダーは、社員が日々、会社のためにベストを尽くす手助けをしなければなりません。

マルサリス:ビジネス分野以外のリーダーに触発されたことはありますか。

ヌーイ:私はバスケットボールが好きで、マイケル・ジョーダンがシカゴ・ブルズでプレイしていた頃のビデオをよく見たものです。彼は頑張り屋でした。彼は 毎日、自分のすべてを試合にぶつけました。でも彼は、すべての栄光を自分自身のために望んでいたわけではありません。チームを勝たせたかったのです。彼は ボールをパスすべき時を心得ていました。たとえ自分でシュートを放つことができるときでも。ある選手権試合では、自分でシュートを放ってヒーローになるこ ともできたはずですが、ジョン・パクソンが3ポイントラインの外側にいるのを見て、彼がシュートを放てば試合に勝てると判断しました。ジョーダンが監督の フィル・ジャクソンの話に耳を傾ける様子も見ていました。彼はタイムアウトの度に、監督の話をとてもよく聞いていました。自分自身の仕事を向上させる方法 について、ジョーダンから多くを学びました。スターであると共にチームプレーヤーでもあるべきこと、自分の利益よりチームの利益を優先すべきこと、何が正 しいかを分かっていると思うときでも、上司の話に耳を傾けてアドバイスを得るべきこと。

マルサリス:ジョーダンの大好きなところは、融合(フュージョン)の概念を理解していた点です。彼は、ただボールをもらって独りで決めるより、同じ目的に 向かって2人か3人、あるいは5人でさえ進むほうがいいことを知っていました。彼はそれを、試合の中だけでなく、人としての行動においても理解していまし た。行動は常に、言葉より多くを語ります。

ヌーイ:同感です。同じようなお手本がいらっしゃいますか。違った考え方をするヒントを与えてくれたジャズの分野以外の人が。

マルサリス:生き方から多くを教えられたのは、アフリカ系アメリカ人の奴隷解放運動家、ハリエット・タブマンです。彼女は奴隷として生まれましたが、やが て逃亡しました。その後、北部の地下ネットワークの支援を得て、ほかの奴隷たちの逃亡を手助けしました。彼女の口癖は、「私は何千人もの奴隷を開放した。 自分が奴隷だと奴隷自身が分かっていたなら、もっと多くの奴隷を解放できただろう」でした。子どもの頃、彼女はずっと私のお気に入りの人物でした。彼女の 手本から学んだことは、現実をつくり出すことが可能だということ。著作家のヘレン・ケラーも思い浮かびますね。彼女は目も見えず耳も聞こえませんでした が、物事を理解することができました。彼女はかつてこう言いました。「性格は簡単にひっそりと養うことはできない。試練と苦悩の経験を通して初めて、魂が 強化され、野心が吹き込まれ、成功が達成される」。ケラーは、目には見えていても分かっていないことがあるということを教えてくれました。物事には、人間 の考えを寄せ付けないスピリチュアルな要素があります。特に束縛や圧力にさらされているときに、そうした要素に身を明け渡すことができるなら、より高い場 所へと導かれます。そこは、私たちがみな目指している場所だと信じています。

インドラ・K・ヌーイ(Indra K. Nooyi,)

世界で最も有名かつ影響力のあるビジネス・リーダーの一人。世界200カ国で約27万8千人を雇用している企業、ペプシコの会長兼CEOとして、 Fortune誌の「ビジネス界の最も有力な女性50人」のリストのトップを占めるとともに、Time誌の最も有力な人物トップ100入りを果たす。イン ドのチェンナイ(旧マドラス)生まれ。マドラス基督教大学で数学、物理学、化学の学士号、コルカタのインド経営大学院でMBA(経営管理修士)を取得。そ の後、米国へ渡り、イェールの経営大学院に通って1980年に2つ目の修士号を取得。卒業後、ボストン・コンサルティング・グループInc.、モトローラ Inc.、ABB Inc.に勤務。1994年にコーポレート・ストラテジー&ディベロップメント担当上級副社長としてペプシコでのキャリアをスタート。2006年 にCEO、2007年に会長に就任。ペプシコは、ヌーイの戦略的指揮の下、ジュース会社トロピカーナの買収、ゲータレードをもペプシコの傘下に収めること となったクエーカー・オーツとの合併、ペプシコ史上最大の国際的買収である乳製品会社ウィム・ビル・ダン買収を通じ、製品ラインを拡大してきた。おやつか ら健康食品までの広範囲にわたる食品・飲料の提供、会社の環境影響を最小化する革新的な方法の発見、コストの低減、全世界のペプシコ社員にとって安全かつ 受容的な職場の提供、会社が活動している地域社会の尊重・支援および地域社会への投資によって持続的な財務実績を実現するというペプシコの目標である「目 的意識を持ったパフォーマンス(Performance with Purpose)」の主たる発案者。

ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)

世界的に高く評価されたミュージシャン、作曲家、バンドリーダー、教育者にして、アメリカの芸術・文化の主要な唱道者。ジャズのルーツである ニューオーリンズ・ジャズから、ビバップ、モダンジャズに至るまでジャズの全範囲にわたって演奏・作曲を行う世界初のジャズ・アーティスト。1961年 ニューオーリンズ生まれ。ジャズ・ミュージシャン一家で育ち、6歳の誕生日プレゼントにジャズバンド・リーダーのアル・ハートから最初のトランペットをも らう。14歳にしてすでにニューオーリンズ・フィルハーモニックで演奏していた。高校卒業後、ニューヨークへ移り、ジュリアード音楽院に入学。ほどなく アート・ブレイキーのジャズメッセンジャーズに加入し、さらに自分のバンドを組んで、多作の作曲・録音キャリアに乗り出す。1983年、ジャズとクラシッ ク両部門でグラミー賞を受賞した史上唯一のアーティストとなる。翌年再びこの快挙を成し遂げるとともに、さらに1985年から1987年まで3年連続でグ ラミー賞を受賞した。1997年、オラトリオ『ブラッド・オン・ザ・フィールズ』により、ピューリッツァー賞音楽部門を受賞した初のジャズ・ミュージシャ ンとなる。音楽の業績に加え、ジャズ人生から学んだ教訓を生かした本である、ジェフリー・C・ウォード(Geoffrey C. Ward)との共著Moving to Higher Ground: How Jazz Can Change Your Lifeをはじめとする6冊の本の著者でもある。2ダース以上の名誉学位を授けられ、ハーバードのケネディスクールとUS News & World Report誌が選ぶ「アメリカのベスト・リーダー(America’s Best Leaders)」の一人に選定されている。

写真: JÜRGEN FRANK